『私の中のあなた』のジョディ・ピコー、日本での出版4作目です。イソラ文庫で上・下巻。 ピコーは社会的なテーマを真正面から書き、その問いかけは明確な答えを持たない。『私の中のあなた』も、『偽りをかさねて』も、『すべては遠い幻』も同じ。そしてもちろん本作もそうでした。 アメリカの高校で起こった銃乱射事件。10人もの死者を出した惨劇の犯人はいじめられっ子のピーター。小さな町は大混乱に陥り、悲しみ、憎しみ、絶望、怒りの津波の中でそれぞれの立場の人々は翻弄されます。 ピコーの筆は決して大上段に構えないし、断罪しない。天使のようにすべての登場人物たちの肩にそっと乗り、彼らが言いたい言葉を誠実に、写し取っていくのです。紙の上にはあまりに切実な台詞が並び、読者は何が正しくて何が間違っているのか分からなくなる。 殺人犯・ピーター、殺人犯を育てた愛情深い親であるレイシー、ピーターを苛め抜いて殺された「人気者」たち、わが子を無残に殺された親たち、ピーターを怪物にしたいメディア、目の前で恋人を殺されたジョージー、ジョージーとの間に深い溝を感じている判事で母親のアレックス、ピーターの弁護を担当するジョーダン、惨劇に真っ先に駆けつけた刑事のパトリック・・・。 特に、惨劇の舞台となる高校生活の描写はぴりぴりと痛い。ピーターの、ジョージーの毎日がいかにハードなものであったか、自分に自信がなく、常に周囲との同化だけを目指す思春期の共同生活の厳しさが容赦なく描き出されます。そこは毎日「いじめ」「グループ分け」という精神的な殺戮が行われているリアルな戦場であること、生徒は日々を必死で生き延びるソルジャーであることがひしひしと伝わってきます。 「誰もわかってくれない」と子どもたちが思い詰めたとき、その手に銃が握られるのは避けようのないことなのかも知れないとさえ思ってしまう。それほど説得力のあるピコーの語りです。 裁判という場で真実が明らかにされていくのがピコーお得意の手法ですが、本作もそう。そして最後に明かされる「真実」に、胸を撃たれたようなショックを覚えてしまいました。子どもが生きるって本当に・・・、本当に大変だ。今まさに自分自身を殺してしまいたいと思っている子どもたち、何とか生き延びて大人になってほしい。私は昔から「子ども心を忘れない大人」というやつのどこがいいのか分からないくらい大人支持派なのだけど、それがますます強固になってしまった作品でした。 作中、弁護士ジョーダンに妻セリーヌが問いかけるシーンがあります。 「子どもたちのことが心配にならない?わかるでしょ、こういう仕事をしていて・・・今回のようなことがあると」と。自分が殺人犯を育ててしまわないか、自分の子どもがあるときいきなりクラスメイトに殺されないか、現代の子育ての厳しさが現れている台詞です。 それに対してジョーダンが返す言葉、それがこの作品の唯一の希望のようにも思えました。 「もちろん考えるさ。(略)でも、だからこそ子どもをつくったんだと思うのさ」 「どういうこと?」 「たぶん、世界を変えるのは子どもたちだから」
by saku_2425
| 2009-11-23 23:58
| 本をよむ
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