アナザー・ワールド 王国その4

よしもとばなな「アナザー・ワールド 王国その4」が「新潮」2010年2月号に掲載されました。
書き下ろしじゃない彼女の作品は久しぶりに見ました。しかも300枚というボリュームを一挙掲載。文芸誌でよしもとばななの小説を読んだのは初めてです(エッセイはある)。

でも、読み始めると違和感はすぐに消え、ただひたすらばななワールドに没頭したのでした。

語り手は雫石ではなく、片岡ノニ。彼女はママと、2人のパパと一緒に4人で幸せに暮らしてきた。
本当のパパは身体が弱くて目も見えないが、誇り高く賢く気高い素晴らしい人。
法律上のパパ(ノニはパパ2と呼ぶ)とママは、そんなパパを心から愛して尊敬している。
パパ亡き後、ノニはパパとの思い出の土地をひとりで訪れ、そこで占い師だったパパの予言通りの男性と出会う・・・

・・・という導入なんですが。

「片岡」という名字でピンときたものの、初めは片岡さんの昔の話か何かかと思っていたのだ。
タイトルが「アナザー・ワールド」だし、王国シリーズのアナザー・ストーリー的なものなのかと。
本当に鈍いのだけど、「2人のパパとママ」の正体に気づいたのは、15ページ目にして死を目前にしたパパの口から「雫石のしょっぱい味噌汁が飲みたい。」という言葉が出た瞬間だったのでした。

あの衝撃ったらなかった。まさかそうくるとは思わなかったのだ。「王国3」から一気に20年以上飛んでるなんて!!楓と雫石と片岡さんの物語がそんなところから語られるなんて!!
思わずページを閉じて本を置き、部屋をうろうろ歩き回って心を落ち着けたくらいのショックでした。

でも、もう一度戻ってからはじっくり噛み締めるようにして読みました。
片岡ノニの物語だけど、彼女の「親たち」の物語でもある。ノニを通じて雫石たちの人生が語られる。彼らの決断、苦悩、葛藤、幸福、愛、友情、そして死が。
「王国3」で恋人に振られ、傷つきさ迷った挙句、自分にとって本当に譲れないものを悟った雫石。
思えば、あの時点で雫石は自分の人生の居場所を定めたのかも知れない。自分の魂が向かうべき処を必死で求め続ける人々を書くよしもとばななにとって、雫石は語り手の役目を終えたのかも知れない。

それでもやはり「王国」シリーズを愛した私にとっての主役は雫石であり、楓であり、片岡さん。
何度も胸が詰まったし、泣いたし、最後の片岡さんとニノの会話なんて涙で字が読めないっつの!
“ゲイカップル+女性”が選んだ生き方、という枠なら江國香織「ケイトウの赤、やなぎの緑」もあるんだけど、テーマが違いすぎて枠が一緒であることにさえしばらく気づきませんでしたよ。

文芸誌なので他に載っている作家さんたちの作品も読もう、と楽しみにしていたのですが、よしもとばななワールドにどっぷり浸りきってしまって抜けるのが困難なため、後日にします。今日はこのまま寝よう。
この「アナザー・ワールド 王国その4」で私にとっての「王国」シリーズは完結しました。
ノニちゃんとキノの今後もちょっとは気になるけど、まあ、それはもういいや(いいのか)。
単行本になるときはまた変わっているかも知れませんが、とりあえず「王国その4」、読了です。

新潮 2010年 02月号 [雑誌]

新潮社


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by saku_2425 | 2010-01-09 00:31 | 本をよむ
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